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続・別体総説(異体字の分類)

別体総説の続き。今回は別体発生の用と体とを考へた。用とは、なぜ、いかなる理由・要求によつて別体が生ずるかといふ事であり、体とは、どのやうにして、どのやうな別体が生ずるかといふ事である。あはせて、別体から別字になる例を書き留めておく。

平成27年10月10日更新 … 用法の段に「異を好む者」の例を加へた。「歴史的なる別体の発生の由来」の段を加へた。
同10月26日 … 誤字を訂し、歴史的なる別体の発生の由来の「從2各國新製字1。」の説明に、避諱の例を加へた。

○別体創出の用法
別体の生ずる理由を整理すると、稿者の覚える所では、
 (イ)別に造字された者 (ロ)筆法の致す所の者 (ハ)意を明かにする者 (ニ)体を明かにする者 (ホ)約易に趣く者 (ヘ)異を好む者
に分けられる。前二者は自然的なものであり、後四者は作為的なものである。また別体と似て非なる者に
 (ト)字義を分かつ者
がある。


(イ)別に造字された者
 造字者の造字意識が異なり、異なる造字法によつたために相関せずして生じたもの。
  紙帋 鷄雞 煙烟 糧粮

(ロ)筆法の致す所の者
 篆書から隷書になる隷変における字形の変易や、訛変によつて生じたもの。この手の物は歴史的な楷書に隨分多い。
  此■ 得淂 肉宍 莊庄 祕秘
 此は止と匕に従ふ本左右結構の字であるが、隷変して左右が連続する。淂は得が行書の影響で散水に訛変した。肉は「冂」「人」「人」 と構へて「肉」を生じ、(一)「人」の上部と 「冂」(二)「人」の下部(三)下の「人」といふ構へて「宍」を生じた。莊は艸冠と爿とが連続して广になり「庄」となつた。祕は訛変して秘となつた。

(ハ)意を明らかにする者
 本字が字義を表すのに足りてゐるのにも関はらず、形符や声符を加へたり変へて字の音義の意を明らかにするもの。字形を変へるだけで、音義自体には変化がない。これを、偏旁を増加するものについていつたのが王筠氏の『說文釋例』のいはゆる「累増字」である。(注)
  一弌 岡崗 笑咲
 弌は説文に一の古文として掲せてある。一に弋を加へて弌としたが、音義は同じである。岡は既に山に従つてゐるが、更に山を加へて崗とした。(智永千字文などに見える) 笑はわらふ意である。口を加へてわらふ意を強調した。(孔子廟堂碑などに見える) 咲はその訛変した形で、『干祿字書』や『金石文字辨異』に笑の俗字として挙げられてをり、その音義は笑と変はらない。咲を開花の意とするのは日本において発生した用法。
 偏旁を置き換へる者は、木製金属製など材質で異なる字を書くものがあり、今いい例が思ひ付かないが、
 牆墻 杯盃
牆はもと形符嗇に従ひ爿の声であるが、墻はカキを土で作る事を意識した字体と考へられる。なほ、爿・土の他に广や牛に従ふ形があるが、これらは訛変である。(金石文字辨異による。もしくは墻も牆の訛変か。) 杯は説文ではもと桮。盃は後出の字で、うつはの意を込めて皿に従はしめた物と見える。意味は変らない。

(ニ)体を明かにする者
 字源を重んじ、隷書楷書の変易した形に対して、造字の体を明かしたもの。いはゆる俗字通字に対する正字の類はこの意である。
  光灮 眀朙 年秊
 光はもと火と儿に従ふ。明は通字に眀と作り、もと囧と月に従ふ。年はもと禾と千もしくは人に従ふ。普通の活字は光・眀・年に作るが、文字学者の正字ではあへて灮・朙・秊と作る事も多い。これは字源を重視し説文の説によつてあへて形づくつたものである。今の日本では書写の字も皆正字形に依つてゐるので気づきにくいが、現代の漢字はこれによつて形づくられてゐるものが多い。たとへば、楷書では、高は中段が「口」ではなくいはゆる梯子(髙)であり、笑は「夭」ではなく「犬」、皆習は「白」ではなく「曰」と書いたが、これらは皆、古代書体の造形を引きついだ形であるのにも関らず、説文がそれとは異なる説をとつてゐるために、活字は説文に據つて高・笑・皆・習と作つた。
 顔之推の著した『顔氏家訓』には既に南北朝時代に、訛変した楷書の字形を排斥して説文に従はしむる字形を用ゐる学者のゐた事が記されてゐる。当時の碑にもさうした字形によつて書かれたものがあり、またその頃から唐代の干祿字書のやうな「字様書」が存在してゐる事が知られる。正字といふものが割と早くから、いはゆる通字・俗字とは(対立的にしろ、並立的にしろ)異なる一流儀の立場を確立してゐた事は注意すべきと思はれる。(中国法書ガイド42『顔勤礼碑』の筒井茂徳先生の論を参考にされたい。)
 唐代になると、さうした正字・通字・俗字の別を示した干祿字書などの字様書が出て、正字によつて記された石経が刻され、後には活字の字体として採用されたりして、一般化した。
 たゞし、現代の活字形は字彙あたりの字書から出てゐるやうで、その字形は唐以降の正字とはやゝ異なつて、一層ガチガチな造形になつてゐるやうに思はれるので、正字といつても彼れと此れとでは少し中身の体系が異なる。たとへば「角」は現代の活字形は縦画を突き出さないが干祿字書では突き出すし、「高」は梯子、「卽」は「即」に作つてゐるなどの差がある。

(ホ)約易に趣く者
 速記や小字書きの便を為すもの。
  點点 辨辯弁 億亿
 點は通字で上部を里占、下部を烈火に構へるが、里を省いて点とした。辨辯は仮りて弁に略した。億は大陸では声符を画数の少なく音の通ずる乙に換へた。

(ヘ)異を好む者
 もとより文字が足りてゐながら、何らかの意によつて、それとは別に新しく文字を創造するもの。北魏別字や則天文字がこれである。北魏の字については、はやく顔氏家訓の書證篇にその指摘がある。
  蘇甦 國圀
「甦」は顔氏家訓に「更生爲v蘇。」とある。「圀」は集韻に「唐武后作v圀」とある。

×(ト)字義を分かつ者
 本字が多義を有するものを、義を分つために偏旁の異なる文字を創つた者である。義を異にするので、もとより別体とは言はれない。王筠氏のいはゆる「分別文」である。
  辟僻避壁 說悅 然燃 注註
 辟はもと僻避壁といつた文字が無く辟の一字を仮りてこれらの字義を表してゐたが、やがて人辵土といつた偏旁を加へて分別した。悅の字はもと無く、說の字を仮りて表してゐたが、心偏旁の文字を作りこれと分別した。然は「燃える」意であつたが、然字が仮借で「然り」「全然」の助字に用ゐられるやうになつたために、然が既に火を有してゐるのにも関らず更に火を加へることで本義を助字の用法から分別した。注はもとそそぐ意で引伸して伝注の注となつた。註の字はもとはしるす意であつたが、注の字の散水を言偏に換へた字として伝注の意に用ゐられるやうになり、注字をそゝぐと伝注とで分別した。

○別體創出の體法
以上は、何故に別体が発生するかを考へたが、次には、実際に別体がどのやうな方法によつて作りだされるかを考へる。その原理は、まづ大きく二つに分けられる。
(甲)別体を新たに造る者
(乙)同体の変易する者
別体を新たに造る者には
 (子)異なる造字による、もしくは、偏旁をおきかへる
 (丑)偏旁を増加する
 (寅)偏旁を減去する
同体の変易する者には
 (子)字形が変易する
 (丑)結構が変ずる
がある。

(甲)別体を新たに造る者
本ある字体とは別に字体の成るもの。
…(子)異なる造字による、もしくは、偏旁をおきかへるもの。
  紙帋 杯盃 煙烟 糧粮 迹蹟跡
 或いは意符を異にし、或いは声符を異にし、或いは六書を異にする。
…(丑)繁化
  笑咲 岡崗
 偏旁を増加する。
…(寅)省化
  點点 藝芸
 偏旁を減去する。

(乙)同体の変易する者
 同じ字体の字形が変化して生ずるもの。
…(子)変易
  此■ 叔■ 邪耶 著着 肉宍 得淂 等䓁
 隷変や訛変によつて字形を変ずる。
…(丑)異構
  羣群 雜襍
 上下左右の居を移す。

○別体の転じて別字となる事
 もと音義の別がない別体が後に転じて異音・異義になる事がある。邪が訛変して耶となり、元々別は無かつたが、後には邪を邪心の邪とし、耶を助字となした。笑に口を加へたものが訛変して咲を生じ、元々別は無かつたが、後に日本では笑を笑ふとし、咲を開花とした。著はもと顯著と著衣との二つの別は無く字形の訛変した着にも差が無かつたのが、音が顯著のチョと著衣のチャクとに分化し、後に著を顯著のチョとし着を著衣のチャクとする用法が現れた。

○歴史的なる別体の発生の由来
 以上は、個々の文字の字体の発生原理を説明したものであるが、その字体の発生といふ事は個別的な無秩序なものではなく、歴史的な文字の変遷の経過に基づいてゐる。記事の初篇でも引いたが、改めて萩原秋巖『別體字類』の説を引いて、別体の発生を歴史的に考へてみる。
 「書流之字體。一概不v可v謂2俗字1。其故何也。則其體或從2古文1。或從2籒文1。或從2通借1。或從2隷古1。或從2増減1。或又從2各國新製字1。千状萬態。不可端睨。」
 書家の字を一概に俗字とはいはれない事を述べる。「則其體或從2古文1。或從2籒文1。」とは、古代文字の時点で既に別体があり、今の字体はそのいづれに従つたかによつて別体となるものである。古文字には古文や籒文といつた書体があるとされ、書体によつて字体の繁簡が少し異なつてゐた。また、古文字の中においても、文字の作り方によつて同じ言葉を表す別の文字が出来た。たとへば篆書で「歌」は或いは「謌」とも書いたが、これは造字者が、言葉を意味する「言」か口の気の意味の「欠」か、どちらにこの字の意を見たかの違ひによる。
 ・「或從2通借1。」とはいはゆる通仮字、もしくは、それによつて固定化した字であらう。古代は文字が少なく、通仮によつて様々な言葉を表してゐた。仮りた方の音義が、やがてもとの字に定着して本の音義が忘れられると、その文字は、仮りた方の音義のための文字となる。
 ・「或從2隷古1。」といふのは、篆書が隷書になつたときに起こつた隷変といふ文字の変質に基づいたものであらう。たとへば「春」といふ字は分解すると上から「屯・艸・日」が積み重なった文字であつたが隷変で今の形になつた。伝統的な楷書の字体はこのやうな隷書の流れを受けてゐる。しかも変化の途中で生じた字体は地層的に積み重なるのであり、後漢の「曹全碑」の隷書には、「曹」といふ文字が、同文にして「𣍘・曹・曺」といふ三種の字体によつて書かれてゐる。上部は㯥の融合してきた形であり、この碑の文字はあたかもその変遷の跡を記録したかの如くである。また、隷書が衰へ、楷書が出来た際に、楷書は草書や行書の形に影響を受けた。「得」を古く「淂」にも作つたのは、行書によつて混同したものである。
 ・「或從2増減1。」は書き易くしたり形をとりやすくするのに点画を増したり減らしたりして出来た文字をいふのであらう。「神」や「氏」に点を附したり、「木」偏の四画目を省いたり、「員」を「貟」に書いたりなど。隋の智果の《成心頌》に「繁則減除。王書『懸』字。虞書『毚』字。皆去2其下一點1。張書『盛』字。改v血為v皿。疏則補續。『神』字加v點。辛字加v畫之類。」といふ書法が述べられてゐる。
 ・「從2各國新製字1。」は、北魏時代の別字のやうなものである。顔氏家訓書証篇に「北朝喪亂之餘。書跡鄙陋。加以2專輙造字1。猥拙甚2於江南1。乃以2『百念』1爲v『憂』。『言反』爲v『變』。『不用』爲v『罷』。『追來』爲v『歸』。『更生』爲v『蘇』。『先人』爲v『老』。如v此非v一。徧2滿經傳1。」とある。たとへば「『更生』爲v『蘇』」とは『甦』の字の事、で、北魏にこのやうな新造の文字が多く作られた。唐朝を奪つた武則天が権威的な意図を以て作つた則天文字も同類である。既に文字がありながら新しく作る、といふ所が肝要である。また、時には避諱によつて文字を改めることもある。唐の高宗の時、昬・葉の字を改めた。太宗の諱「世民」の含まれてゐるのを避けたとされ、その字は、恐らくそれぞれ氏・云に従はしめた昏・■[上中下:艹云木]であらう。(王鳴盛『十七史商榷』は葉を改めて卌に従はしめたと考へてゐる。) 但し、孔丘の「丘」の四画目を欠かすなどの欠画は、「元の字を欠かす」事であり、元の字形が根底に意識されてゐるのであつて、確立した一つの字体とまではいへないと思ふ。そこまでいくとこの避諱は「専用の字体を使ふ」といふやうな法になり、「画を欠く」ことにはならない。
 萩原氏の述べたのは、書法における俗字についてのみ述べたものであるから、こゝにさらに一例、文字学上から正字を立てたものがあげられる。
 以上をまとめると、別体発生の理由に次のやうな歴史的な事例を認めることができるであらう。
 ・異造字 … 新しく文字が出来る際に、同じ言葉を表すのに異なる形の文字が別々に作られる。主に古文字において始まる。
 ・変易 …… 書体の変遷によつて字形が変易する。篆書から隷書が生ずる際に文字が変質し、その際に、字形の最も大きな変易が起こつた。また、楷書は草書や行書の影響をも受けてゐる。 変易の方法や度合によつて異なる形として保存される。
 ・新造字 … 既に文字が備はつてゐながら、なんらかの事情により新たに作り出される。北魏別字や則天文字など。
 ・仮借字 … 仮借であつたものが本義を襲ひ、別体となる。古代的なもの。
 ・正字 …… 訛変を厭ひ、六書に基づいて字の体を正す。字様学や字書の例。
 ・書法 …… 点画の増減など、書法的な約束によつて、同じ字が異なる書かれ方をする。各書体の書法における法である。

(注)
 王筠氏は『說文釋例』の中で、說文において本字に偏旁を増加して生じた文字を「分別文」と「累増字」とに分類した。分別文とは偏旁を加へることによつて本字の持つ異義を分かつ者で、累増字は偏旁を加へながらその字義の変はらない者である。累増字は、王氏は主に篆文と古文との関係について言つてゐる。
字有不須偏旁而義己足者。則其偏旁爲後人遞加也。其加偏旁而義遂異者。是分別文。其種有二。一則正義爲借義所奪。因加偏旁以別之者也。[冉字之類]一則本字義多。旣加偏旁。則祇分其一義也。[伀字不足兼公侯義]其加偏旁而義仍不異者。是謂累増字。其種有三。一則古義深曲。加偏旁以表之者也。[哥字之類]一則旣加偏旁。卽置古文不用者也。[今用復而不用复]一則旣加偏旁而世仍不用所行用者反是古文也。[今用因而不用㧢]云々
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プロフィール

平 春明

Author:平 春明
住まひは神奈川県鎌倉市。東京の渋谷の丘で国文学の勉強をしてゐる学生、はるあきらです。なにくれと勉強した事や、面白かつた事などをかきつらねていきます!
普段から歴史的仮名遣ひですので、こゝでも歴史的仮名遣ひです。
主に、国文学、国語学、日本数学、その他諸々、気に入つた物を紹介していきたいと思ひます。

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